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名前: mizore
2008年1月29日 (火)
喪失

今日、私の――おやつがなくなった。

オマエ――
どこにいったか知らないか?

帰宅したらいつも通り、
キッチンにおやつの皿が用意してあって――
それなのに――
ああ、いったいどこにいったんだろう、私の、
おやつ――。


私が見たときには3つの皿があったんだ。

我が家では、3時のおやつはいつも人数分をきちんと皿に分けて準備をする。
取り合いになったり、こっそり食べる者が出ないようにするためだ。

青空などはまだ小さいから、好きなホットケーキなど際限なく食べてしまうし、
反対に綿雪などは食が細くて――誰も見ていないと何も食べたがらないことが多い。

キッチンの真ん中にあるアイランドカウンターに
ずらりと17枚の皿が並ぶのを見るのは少し楽しい。
皿の数が17なのは、
あさひはまだ離乳食を始めたばかりだし、
海晴姉はもうおやつを食べないからだ。

しかし、平日は大抵、私の帰宅は姉妹のなかでもかなり遅い方になるから、
その光景はなかなか見られない。
海晴姉は別としても、他に私と帰宅の時間が前後するのは、
たいてい年の近い春風とヒカルくらいだから。

だから今日、帰宅して制服のままキッチンによって
並んだ3つの皿を見たとき――。

なんだ、今日は早く帰ったんだな――と思って、
少し豊かな気持ちになったんだ。

早い時間に帰宅するというのは何故か――
心の躍るものだ。
そう思わないか?
これから夕飯の時刻まで何も手のついていない
まっさらな時間がたっぷりとある――。
滅びの時が来たるまでの彩るべき時間はまだ豊かに私の消費を待っているのだ。

何をしようかと考えながら、
後でゆっくり食べようと思って、皿をリビングのテーブルに置き――
私は自室へ着替えに行った。

そして制服を脱ぎながら、そういえば読みかけのダークマターの本が――
と思いつき、つい、そのまま読み始めてしまった。

そして――。
気がつくと小雨が私を呼びに来ていたんだ。

「霙お姉ちゃん――もうそろそろお夕飯みたいです」

私はあわてて着替えをすませ、自室を出たが――
その時にはもう――私のどら焼きはすべて影も形もなくなっていた。

形あるものはすべて滅びる――
もちろんそれは真理だ、しかし――
ああ、いったいどこに行ってしまったのだろう、
私のどら焼き――。

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