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名前: hikaru
2008年2月 1日 (金)
私と一緒に

うわっ、バカ!
おい、オマエ、
ちょ、ちょっと――ま、待ってよ!

そんなにズンズン――

先に行かないでってば!

あっ――うん、
そりゃあ心細いから一緒に謝りに行ってって頼んだのは私だけど、
そんなに急いで行かなくても――
私が霙姉をこわ――
あっ――
だから、まだ心の準備が――
おい、ちょっと――

――あっ!

霙姉――。

……

ご、ごめんなさいっ!!

霙姉のどら焼き食べちゃったの、どうやら私――
みたい――
なんで……
す……

……

いや、だからそうじゃなくって――
実は、私、間違えて霙姉の分も食べちゃってたらしくて――
あれが霙姉の分だなんて全然知らなかったんだよ、
ホント、全然っ!

それに霙姉のだって知ってたら、
ぜーったい手なんか出すわけないし……
あ、いやこっちの話――

とにかく――
ごめんなさいっ!!

この――かわいい霙姉の新しい弟に免じて許してくださいっ!
(ホラ、オマエも一緒に謝ってよ! 後でこの埋め合わせはするからっ!)

――え!?
怒って――ないのっ?


――――――――――――――――――――


霙姉は――

どら焼きはきっとヒカルの腹の中ではなく、
無限の淵に消えたんだと言って笑ってくれた。

いつものようなポーカーフェイスに
小さく口の端だけを持ち上げて。

ホントに――

霙姉って――
なんかコワイし――よくわかんない人だと思う。

でも――
やっぱり――
私のお姉ちゃんだなとも思う。

そして、霙姉が笑ったそのとたんに、
まるで今までの話を聞いていたみたいに。
ドアからあさひを抱いた蛍と小雨と星花が――
顔を真っ赤にしてなだれ込んできて。

すると霙姉がカモミールティを入れるから、
寝る前にお茶をしないかと言った。
今日はとってもいい月が出る日だから、
みんなで月でも見ようかと窓の外を指し示し――

だから私たちはまだ起きていた妹たち全員を連れて――
久しぶりに庭のコンサバトリーで月見をした。
カップに入った薄い金色のカモミールティに
きれいな弓張り月が映ってた。

いつの間にか膝の上で眠ってしまった
虹子の頭をなでながら、
霙姉は――
私に小さな声でささやいた。

「宇宙の塵になる前に、
 オマエの心を今夜の月に願うといい
 ――きっと叶う」

そう言われて月を見るとなんだか本当に、
願い事――ずっと心の中にあった秘密の願いが叶うような気がした。

どうもありがとう――
オマエのおかげで――
霙姉の心の中に少しだけ近づけた気がする。

え?
願い事が何かって――?
バ、バカ!
そんなこと――
言うわけないだろ。

もうさっさと寝ろ。
おやすみ――