page: post-58.html
名前: mituki
2008年2月20日 (水)
逢魔時

いかん!

そこの角を曲がってはならぬ!!

――良かった、間に合ったようじゃの。

なに――虫が騒いでの。
気になって帰りを待っておったんじゃ。

うん――。
……。
もうよい、か。

では――ぶらりぶらりと、帰ろうか。

ん――?
ほれ。

早く手をつながぬか!

わらわは幼児ゆえ。
道を歩くときは大きい者と手をつなぐのじゃ。
当たり前であろ?

フフフ――そちの手は、少し湿っておるの?
冬なのに良きことじゃ。

――立春を過ぎてから――
ずいぶん陽がのびてきたの。

でも――こんな陽気の頃には、
気をつけなくてはならぬぞ。

真冬の暮れた日から遠く――
体の芯までしみ通る寒さのゆるんだこの季節。
かすかに春の香りがする
太陽の沈んだ
夕方の――

逢魔時。

このように気軽に角なぞ曲がってはならぬぞ?

ふと――
そちが角を曲がったその先に。
その鼻面をつきあわせるように――
魔物が笑って立っておるのじゃ。

おお、怖や。

そちはうまそうなオーラを持っておるからの。
好かれるのであろ。
そちが連れて行かれてしもうてはわらわも困る。

その点、わらわは魔物など怖くは――

……。

――うむ。

こうしてそちと手をつないでおるとな、
何か魔物の気持ちがわかるような気がするぞ。

少し、歌いたくなってきたの。

あかねさす――
むらさきのゆき――
しめのゆき――
のもりはみずや――

やぁ――
興奮じゃ――♥