私は百科事典が好きです。
何事かの疑問が湧き起こった際には
とても役に立ちますし――
手元にあるとなんだか落ち着きます。
特に。
なにもするべきことのない日には
ぼんやりと――。
ただ遠目に眺めているだけでも、
私に大変楽しい時間を過ごさせてくれます。
ぱらぱらと目的もなく――
あの大きな判型のページをめっくてゆくと。
小さな文字で埋められた非常に規則的なページ構成
その無数のページの
あちこちに散りばめられている、
楽しい絵画や美しい図形――
普段、ただ単純に調べたい単語を引いているときには
気づくことの出来ない見知らぬ言葉たち――
それは私が日常生活では聞いたこともないような
不思議な事象や物事が現実にはまだまだあることを
私に教えてくれて――。
私にとって、百科事典は広大な世界と
無限の岸辺を感じさせてくれる
楽しみの宝庫です。
そして――
ふと思い出します。
キミは――
百科事典棒の話を知っていますか?
すべての文字を数字化することで、
どんな情報もたった1つのドットとして表すことができ、
そうすれば、この全世界すべての情報を――
たった1本の楊枝にも刻み込めるという話です。
現実には――1本の楊枝に全世界の事象すべてに関する情報を
刻み込むだけの技術はまだあり得ません。
けれど――。
いつか――そんな日が来るでしょうか。
日々進歩を続けるトランジスタがついに原子の壁を打ち破り、
いつか――。
私の内にもそのような――
メモリーを育てることができるでしょうか?
その時には――
私の脳の記憶の内で、
もっとも愛おしいドットは、
キミと家族のことになるでしょう。
不思議ですね。
この平和な家族の営みが――
1つの小さなドットによって表される……
何と愛すべき小さな黒い点でしょうか!
ああ――私たちはどうしようもなく
1つのものなのですね――