世の中の物の姿は――
すべて目を通して私の脳に伝えられます。
私が見ている物と思っている物は
じつは網膜から神経組織を通じて伝えられる
単なる電気信号であり、
その電気信号を――
私の脳が。
私の好きなように――
再生しているのにすぎません。
ですから――。
実際のところ――
世界が本当に私が見たとおりの姿をしているのか、
それを確かめるすべはないのです。
触覚や聴覚など他の五感を使用したとしても――
視覚が私をだましていないという保証はどこにもありません。
たとえば――。
昨夜のヒカル姉とキミの――
もつれあった姿のように。
あれは――
衝撃的な姿でした。
足と足が――からまりあって、
どのように構成されているのか――
まるでだまし絵のように、
一見ではよく分からないのです。
不思議な――姿。
ヒカル姉は遊びだと言っていましたが、
あれは本当に――遊び?
それにしては奇妙な――。
……。
自分の視覚を疑うような――
不可解な姿でした。
私は、週末の“夜祭り”に向けて
真璃や観月やユキたちと準備をしていたのですが、
真璃と観月が小規模なケンカを始めたまま、
先に自室へと戻ってしまい、
道具の片付けをしてから1人遅く、
自室に戻ったので――。
その姿を偶然見てしまったのです。
あの時、もしドアを開けていなかったら――。
果たして2人はあの部屋で
どのような姿になっていたのでしょうか?
真っ暗な筺の中で、
可能性という物は常にすべてが重なり合っていて、
観測者がその筺のふたを開けてみない限り
事実として確定しない――
見た者は私1人です。
あれは本当に確定した現実だったのでしょうか?
私は私の視覚にだまされてはいないのでしょうか?
キミは――昨夜、
ヒカル姉といったい何を――
していたのですか?